相談者への真摯な対応と企業活動への反映
基本的な考え方
大塚グループでは消費者の権利を重要な人権課題の一つと位置づけ、すべてのステークホルダーとの対話により適切な意思決定を行い、消費者志向経営を企業の社会的責任として推進していくことを基本方針として「消費者志向自主宣言」を2018年10月に表明し、毎年フォローアップを行っています。
推進体制
大塚グループ各社では患者さん、医療関係者、お客さまに対する専門の窓口を設置し、担当社員には適切な研修を実施しています。例えば女性向けに開発された製品では、ご利用になるお客さまが相談しやすいように、専門の教育を受けた女性のオペレーターを配置し、お客さまとのコミュニケーションの深化を図るとともに、適切な情報をお伝えしています。製品へのご指摘やご提案は関連部署を介してトップマネジメントに共有する仕組みを整え、製品の改善・改良に活かしています。
各社の顧客窓口は社内関連部門と常に連携をとる体制を整えています。例えば、大塚製薬では、品質部門や生産部門、製品担当者にお客さまの声を日報として配信。製品やサービスに問題が発生した場合の社内関連部署の連携を深め、消費者志向の意識を醸成しています。また、国民生活センターや全国の消費者センターから問い合わせがあった場合にも、関連部署およびグループ関連各社が連携して対応し、消費者の信頼の獲得に努めています。
また、バリューチェーンの各段階の活動においてもステークホルダーの皆さまと積極的にコミュニケーションを図り、消費者志向の事業活動を推進しています。
お客さまの声を活かした経営を推進する仕組み
大塚グループお客様対応担当者連絡会開催
2008年より、グループ連携の「大塚グループお客様対応担当者連絡会」を大塚ホールディングス取締役参加のもと、毎年開催しています。医療、NC、消費者関連事業、日用品雑貨、通信販売窓口の代表者および関係部署が参加し、各社の対応状況や、消費者志向への取り組みのトピックスを共有し、消費者志向経営の企業風土を醸成しています。
そのほか、2023年より消費者対応専門弁護士およびメンタルカウンセラーと契約し、グループ全体で消費者対応の質的向上と職場環境の維持・推進を図っています。また、2022年12月より「大塚グループ スキルアップ情報交換会」を毎月開催し、外部の専門家などを講師に迎え、お客さま対応力の向上をグループ全体で推進しています。
大塚製薬工場
信頼性保証本部
輸液DIセンター長(兼)
お客様相談室 室長
沢田 憲彦
15年目を迎えた「大塚グループお客様対応担当者連絡会」の活動
大塚グループは多種多様な製品を取り扱っていることから、さまざまな顧客対応事例をグループ全体で共有できることが強みだと感じています。第28回目の開催となる2022年秋の連絡会では幹事を務め、グループ10社15窓口のお客さま対応部門の責任者に加え、関連部署から33名が参加し、外部講師による講演と事例を用いたグループワークを実施しました。各社お客さま対応部門の皆さまとは、日頃からグループチャットで情報交換なども行っています。今後も、グループのお客さま対応部門が一体となって、消費者志向経営を推進していきます。
お客さまの声を元にした製品開発と改善事例
介護が必要な方への食のQOLの向上のための製品開発
(イーエヌ大塚製薬)
イーエヌ大塚製薬では、お客様相談室に寄せられるお客さまの声を、「問い合わせ日報」として経営層を含む関連部署の全員で共有する仕組みを整えています。その中で、かむ力が弱くなった方向けの食事「あいーと」を長年ご利用頂いている介護が必要なお客さまで、状態の進行に伴い食べにくくなったようだというご家族の声が届きました。イーエヌ大塚製薬では、お客さまの声を真摯に受け止め、「あいーと」の味や彩りは保ちながらさらにやわらかく、口の中でまとまりやすく仕上げた新製品の開発に着手し、「かまなくてもよい食事あいーと」を2021年7月に発売しました。
握りやすく、開けやすい容器形状を目指した改善(大塚製薬工場)
大塚製薬工場の病者用食品「オーエスワン※1」「オーエスワンゼリー※1」では「高齢者」「療養中」「要介護者」など力の弱いお客さまに配慮した容器形状などに変更しました。一層使いやすい、より良い製品を追求する姿勢が評価され、2020年度のグッドデザイン賞を受賞しました。また、日本語に加え、英語、中国語(簡体字)、スペイン語で製品情報を確認できるサイトを用意しQRコードを製品のラベルに追加表示しました。現在は、韓国語サイトも追加されています。
- ※1軽度から中等度の脱水症の方の水・電解質を補給・維持するのに適した個別評価型病者用食品(消費者庁許可)
改善事例:オーエスワン500mLペットボトル
- ボトルの握りやすさに配慮して、丸ボトルからくびれのある角ボトルへ変更しました。
- 製品のより詳しい情報にアクセスしていただけるQRコードをラベルに追加表示しました。
- キャップの開けやすさに配慮してキャップの溝を細かくし、天面に開ける方向を表示しました。
改善事例:改善事例:オーエスワンゼリー
- キャップの直径を5mm大きくしました。(2019年1月初旬出荷開始)
オーエスワンは、2020年度グッドデザイン賞を受賞しました。(製品画像は、2020年当時のものとなります。)
開けやすい包装箱への改良(大塚製薬)
大塚製薬では、品質部門の担当者が製品に関するお客さまの声を製品の改善・改良に活かしています。たとえば「カロリーメイト ブロック」は箱の裏面にある円形の切り取り線に工夫があり、軽く押すだけでふたが開くようなっていますがお客さまの声を参考に開封部分のミシン目を数ミリ単位で調整し2022年3月に、より開けやすい包装箱に改良しました。
色覚の多様性に配慮したデザインの採用(大塚製薬工場)
大塚製薬工場とイーエヌ大塚製薬の医療用医薬品である経腸栄養剤(経口・経管両用)「イノラス®配合経腸用液」では、色覚の多様性に配慮し、商品の識別性を高めた包装デザインを採用しています。これが評価され、2020年6月に、特定非営利活動法人カラーユニバーサルデザイン機構※1よりCUD認証※2を取得しました。色覚の多様性に配慮した包装デザインにより、本製品を服用される方のみならず、本製品を取り扱う医療関係者の薬剤取り違え防止にも寄与することを期待しています
- ※1広く一般市民や団体を対象として色覚に関する情報を伝え、色づかいに関する評価・改善提案を行い、実社会の色彩環境をヒトの多様な色覚に配慮した社会に改善してゆくことによって、全ての人がより公平で文化的な生活ができる社会の実現に寄与することを目的とする特定非営利活動法人
- ※2製品が多くの人にわかりやすい配色であることを保障する第三者認証。
https://www.otsukakj.jp/info/20200716.pdf
誰にでもわかりやすい適切な表示の提供
医療関係者のためのわかりやすい表示への変更(大塚製薬)
大塚製薬の「ユービット錠(ヘリコバクター・ピロリ感染診断用剤)」で、医療関係者からのお問い合わせを製品の表示変更につなげました。ユービット錠は検査時に1回1錠服用する薬剤であることは添付文書に記載されていますが、1箱2錠包装のため「1回の検査で2錠服用するのですか」などのお問い合わせがありました。そこで適正使用推進(誤使用防止)の観点から注意喚起が望ましいと考え、関連部署に検討依頼し、SP包装および個装箱に「1回1錠」という注意喚起表示を追記しました。
だれにでもわかりやすい表示の推進(大塚食品)
国内グループ会社のパッケージでは、スペースの制約があるなどの一部の例外を除き、法律で義務づけられた表示に加えて、「開封後の保存方法」「使用上の注意」「アレルギー物質(義務表示および推奨表示)」「包材の材質」などをわかりやすく表示すること推進しています。また、お客さまの声をもとにさらなる改良を行っており、例えば大塚食品ではアレルギー表示を一括表示以外の場所に別途設け、一覧で判別できるように変更。「こどものためのボンカレー」ではイラストも活用して情報をわかりやすく記載し、安心して製品を選んでいただけるようにしました。
食品ロスを防ぐための賞味期限表示の変更
大塚グループでは、生産技術の改善、生産量への柔軟な対応、原料の効率的利用や安全性・安定性の確保などにより、生産効率の向上を目指すことで、食品ロスの発生抑制を行っています。例えば大塚製薬では、約90アイテムの製品で賞味期限の延長や、年月表示への切替えを行いました。また、大塚倉庫では、賞味期限間近や、外装が一部破損しているなどの製品をグループ社員に購入してもらう仕組みを導入し、廃棄を最小限に防ぐ取り組みをしています。このような取り組みの結果、2022年は116.4tのフードロスを削減することができました。
賞味期限の延長と年月表示への切り換え
賞味期限とは「容器や袋を開けないまま、記載された方法を守って保存していた場合に、品質が変わらずおいしく食べられる期限」のことです。大塚製薬では食品ロス削減への取り組みとして、賞味期限の延長と共に、期限表示を従来の年月日から年月に変更しました。年月表示は、表示月の末日まで品質を担保することで、最大1カ月の賞味期限延長が可能となります。
【参考】 2020年10月10日製造品の賞味期限印字例
適切な栄養摂取のための表示(ニュートリション エ サンテ社)
欧州を中心に世界40ヵ国以上で健康栄養食品を展開しているニュートリション エ サンテ社(N&S社)は、生活者の食と栄養に関する支援をしていきたいという考えから、生活者が栄養について、正しく理解できるよう支援しています。一例として、2020年以降「ニュートリスコア」をすべての製品(Isostar®ブランドの製品を除く)に適用し、生活者に製品の栄養評価を伝えています。「ニュートリスコア」はAからEまでの5段階で栄養評価をするシステムです。フランスで始まった取り組みで、現在では多くのヨーロッパ諸国で導入されています。これは、消費者が栄養面からより健康的な製品を選択できるようにすることを目的としており、心血管疾患、肥満、糖尿病のリスク軽減につながることが期待されています。N&S社では、すべての製品において、「ニュートリスコアC」以上のレベルを目指しています。
お客さまの声を活かしたラベルレスボトルの発売(大塚製薬)
大塚製薬のお客様相談室には、昨今のお客さまの環境意識の高まりとともに、飲み終わった後のペットボトルやガラスびんのラベルを剥がしやすくして欲しいという声が多く寄せられるようになりました。日本では、ガラスびんに貼られている紙ラベルは剥がさずリサイクルすることが可能ですが、お客さまのご要望に真摯に応えるべく、飲料ドリンクびんで国内初のラベルレスボトルとなる、「オロナミンCドリンク ラベルレスボトル」を2021年7月に発売しました。
大塚製薬「オロナミンCドリンク ラベルレスボトル」ニュースリリース
環境に配慮した包装材の変更(大塚製薬)
大塚製薬の通信販売部門では、定期的に実施しているお客さまへのアンケートの中に、「環境に配慮して梱包材も見直して欲しい」というご意見があったことから、2021年1月から、緩衝材の素材をプラスチックから紙へ変更しました。この変更で年間、約270㎏のプラスチックの削減が見込まれる予定です。
ステークホルダーとのコミュニケーション活動例
リモートを利用した工場見学(大塚製薬 徳島板野工場)
医薬品や「ソイジョイ(SOYJOY)」などを製造している徳島板野工場では、リモートによる工場見学を実施しています。大塚製薬や徳島板野工場に関する説明とともに、ドローン撮影による上空からの工場の様子や、SOYJOYの生産工程、絶滅危惧種のカワバタモロコをはじめとするさまざまな生き物が生息しているビオトープ※の様子などが映し出される動画を通してリモート見学いただいています。
- ※ビオトープとはドイツ語の「Bio(生物・生命)」と「Top(場所)」を組み合わせた合成語で、「地域本来の野生生物が自ら住み続けられる場所」のことです。
徳島板野工場では、工場で使用したきれいな冷却水がそそぐ池にさまざまな生物が生息しています。
全国47都道府県との連携協定を通じた地域の健康課題解決
(大塚製薬)
大塚製薬のニュートラシューティカルズ事業部では、製品の研究開発や健康に関する啓発活動で得られた知見を活かし、全国の各自治体と連携して「熱中症対策」「食育」「スポーツ振興」「女性の健康」「防災・災害時支援」といった地域の課題解決に協働で取り組んできました。現在では全47都道府県と健康に関する包括的な連携協定を締結し、さらに市などの自治体にも活動の幅を広げ、地域の人々の健康増進への貢献を中心に活動を行っています。
また、新たに医療関連分野の知見を活かして、地域の健康課題解決の取り組みを開始しました。これまでニュートラシューティカルズ事業部が行ってきた製品や健康に関する情報提供などの支援に加え、新型コロナウイルス感染拡大で課題が顕在化しているこころのケアなどの分野でも自治体と協働しています。
地域が抱えるアンメット・ニーズ解決をサポートする「地域包括推進部」
大塚製薬の医薬営業本部では、地域の健康課題に対してトータルヘルスケア企業だからできるサポート活動を推進しています。
大塚製薬 医薬営業本部
地域包括推進部 部長
山田 成高
地域の健康課題解決に向けステークホルダーを「つなぐ」活動を推進
地域包括推進部では、地域が抱えるアンメット・ニーズについて自治体や医療関係者、教育現場などの声を傾聴し、さまざまなステークホルダーをつなぐサポートを行っています。例えば災害医療では、行政、薬剤師会、災害拠点病院などを専門家とつなぎ、災害時の医薬品供給体制や救護所での薬事トリアージスキル、そしてこころのケアまで学べる包括的なプログラムを提供し、災害医療現場で活躍できる薬剤師の育成にも協力しています。
病気の予防や在宅医療・介護についての情報提供(大塚製薬工場)
大塚製薬工場では、輸液や臨床栄養製品の知見を活かし、病気の予防から在宅医療・介護にわたるきめ細かな情報提供を通じて自治体と協業しています。2019年に徳島県鳴門市、2020年には北海道釧路市、兵庫県小野市、富山県射水市と包括連携協定を締結しました。
中学校へオンラインで「SDGs・がん・創薬」に関する講演を実施(大鵬薬品)
大鵬薬品では、研究・生産拠点のある自治体との協働を中心に活動を進めています。例えば、つくば市と「つくばSDGsパートナーズ」を締結しています。「つくばSDGsパートナーズ」を通じてご縁があった茨城県内の中学校へ、オンライン講演会を実施。広報からのサステナビリティ活動紹介、研究員からのがんや創薬に関する説明、大鵬薬品のバイオベンチャー向け投資子会社である大鵬ベンチャーズ社員によるコーポレートベンチャーキャピタルの仕事紹介に加え、つくばエリアのショートムービーをご覧いただきました。2022年は、栃木県内の高校生に対して、製薬企業の仕事内容などを説明する企業訪問を実施。研究職の仕事内容については研究所所属の社員からの講演も行いました。学生の方からのたくさんの質問を通じて、医学の道への進学を希望している学生たちと双方向のコミュニケーションを図ることができました。
四国大学短期大学部
ビジネス・コミュニケーション科 教授
加渡 いづみ 先生
大塚の消費者志向経営の深化に期待
「環境」「働く人の権利や幸せ」そして「地域」をキーワードとするエシカル消費の理念を根拠として、消費者との共創により持続可能な地域社会の構築を目指される大塚グループの皆さまの活動に心からの敬意を表します。「これまで」の延長上に「これから」を描くことができない時代の中で、利他の精神を核とした消費者志向経営と、すべてのステークホルダーとの多様で深化したエシカル・コミュニケーションが、大塚グループから広く海外へと広がっていくことを信じてやみません。