社外取締役・社外監査役メッセージ

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社外取締役
社外監査役

社外取締役  松谷まつたに 有希雄ゆきお

取締役会における豊富な情報提供

大塚ホールディングスでは、われわれ社外取締役に対して取締役会での十分な議論のために必要な情報を提供するべく、大塚製薬などの主要会社については個別に事業を説明する場を設け、研究開発の進捗も定期的な報告会を設定しています。それでもすべての事業を見ることは難しいことから、より効率的で横断的な議論とするためには、たとえばサプライチェーン、ESG、人材育成など、テーマを決めて焦点を絞った議論を行うことも必要です。

高いヘルスケア意識をもって「大塚らしさ」の価値を追求

大塚の医療関連事業は「病気」に焦点を当てており、NC関連事業は「消費者」全体を見ます。同じ「健康」をテーマにしながら違うフィールドで事業展開する2事業間の有機的なつながりこそが、医療用医薬品専業企業にはない「大塚らしさ」の価値の源泉と考えます。
例えばNC関連事業では、医療関連事業で培った高いレベルの倫理性や科学的根拠をもとに製品開発を行っており、それが製品に対する市場からの高い信頼につながっています。また医療関連事業でも、医薬品や医療機器を通じて特定の疾患に焦点を当てるだけでなく、「消費者」全体を意識していることから新たな気付きを得ることができます。こうした高い意識や視野の広がりが相互に影響しあいながら、長年かけて大塚グループの独自性が培われてきたのだと感じます。今後も「大塚らしさ」を大切にして、高いヘルスケア意識を持って独自性を発揮し続けてくれることを期待します。
大塚グループは、2010年に東京証券取引所市場第一部(現在はプライム市場)に上場し、幅広いステークホルダーを意識した事業形態を構築してきました。そして、2021年~2022年の創業100周年Yearを経て、次の100年に向け、さらなる事業領域の拡大を見据え歩みはじめています。
私は、永続的に企業が存在していくためには、企業が社会に対して何らかの価値を持って貢献し続けることが必要だと考えています。利益のみを追求した企業は、短期的には利益を上げられても、ステークホルダーからの信頼を得られず長続きしません。大塚グループでは、創業時から続く確固たる理念があります。それが形骸化するのではなく、現在に至るまで事業に着実に活かされています。事業規模が拡大しても、この長所を失うことなく次の世代に引き継がれることを期待します。

組織横断的な広い視野を持った人材の育成

今後グループ全体で持続的な成長を実現するにあたり、経営人材の育成が課題の一つであると考えます。
これまでは各事業会社がそれぞれの独自性を発揮することで、社会課題の解決に貢献する独創的な製品を生み出してきました。その一方で、激しい事業環境変化に対応するため、グループ全体で足並みを揃えることや、リソースを集中して効率化を図るといったことなどの検討も必要ではないでしょうか。
例えば人材育成については、仕組みを共通化するなどグループにおける方向性を統一することで、各社の負担軽減に寄与するとともに、企業価値の最大化に貢献できるようになると考えます。自身の専門分野や所属組織の枠を超えて広い視野を持ち、組織を牽引できるリーダーシップのある経営人材の育成が急務だと感じています。そうした人材をどのように育成し、経験を積ませていくか、大塚ホールディングスでも引き続き検討を重ねていく必要があると考えます。


社外取締役  関口せきぐち こう

自由な意見の交換により活発に運営される取締役会

大塚ホールディングスの取締役会は、さまざまな経験や見識を持つメンバーが自由に意見をぶつけあい、よりよい意思決定をしていこうという思想に基づき、活発に運営されています。全体の議論のうち、おそらく半分程度は社外取締役が意見を述べているのではないでしょうか。会社側からの提案に対し、社外取締役からの発言をもとに、提案内容が改善され改めて付議されたという例もありました。

さらなるグローバル展開に向けた取締役の多様性

取締役会の構成について、社外取締役は、各々の専門性について十分な多様性が確保されていると認識しています。さらに、今後のグローバル展開を見据えて、売上収益が急激に伸びている北米での事業経営に精通した外国籍の方や、日本企業の中でグローバル事業の経営に携わった方が取締役として加わると、より多角的な視点で議論が進むのではないかと考えています。私自身も外資系の日本法人トップを経験したことがありますが、世界的に激しい事業環境変化を踏まえて、海外での経験が豊富な人材やグローバルな視点を持った人材をより多く取締役会の中に迎え入れる必要性を感じています。

各事業会社の独自性を保ちながら全体最適を実現するためには

グループ会社の運営に関して、各事業会社が自由度と独自性を持って事業を展開することでユニークなイノベーションが実現されてきました。その良さは残すべきであり過度に中央集権化すべきではありませんが、事業会社個別のベストな事業運営とグループとしての方向性の在り方について、取締役会で議論をさらに深める必要があると感じています。海外での事業展開などについては、大塚ホールディングスが全体最適を考えながら主導権を持って戦略を進めることができれば、よりシナジーが発揮され、グループ全体がさらに発展していくと考えます。

海外のガバナンスのあり方

大塚グループの売上収益や従業員数は、日本よりも海外の割合が高くなっています。こうした状況の中、海外事業のガバナンスも重要なテーマの一つとなってきていると言えます。例えば、中国で事業を展開していますが、従来から統括的な組織が主導するのではなく、現地それぞれの実情を重視した事業運営が行われてきましたが、もっとガバナンスを強化することも検討すべきではないかと思っています。また、中国に限らず、世界各国・地域における事業では、地政学的リスクもあるため、迅速な判断とともに繊細なかじ取りが要求されています。大塚ホールディングスのグループ経営においては、こういったリスクがあることをあらためて認識したうえで戦略を考える必要があると考えます。



社外取締役  青木あおき 芳久よしひさ

激変する環境に合わせて、グループ全体での柔軟な対応を期待

取締役会の構成は、社内・社外役員の比率が適切であり、各社外取締役の専門性も重複しない絶妙なバランスで運営されています。また、主要事業会社や今後、期待されるメディカルデバイス事業についても、それぞれ関連する取締役が参画し、グループ全体の方向性を共有できていると判断しています。今後は、グローバル展開や「女性の健康」分野の事業拡大を踏まえた外国籍・女性役員の増員や、異なる視点を持つ監査役との連携を深めることで、さらなるガバナンス向上が期待できると考えます。一方、現在の事業規模と今後の事業領域拡大を鑑みて、環境の激変に柔軟に対応していくために100周年を超えたこのタイミングでグループ全体のリスクマネジメントの仕組みの見直しについて、スピード感を持って取り組んでほしいと進言しています。大塚グループは環境に合わせて柔軟に適応していく意識を持った会社なので、さらに進化していくことを期待しています。

事業分野を任せられる人材の育成が必要

グループ経営を推進するホールディングス体制は、現在の激しい環境変化に対応するのに適した企業形態であると考えています。一方でリスクマネジメントについては、196社のグループ企業があり、事業形態も多岐にわたるため、大塚グループの事業をどのように分担し、どういった体制で実現するかをあらためて考え、同時に人材育成についてもより戦略性を持つべきだと考えています。優れた人材は存在しますが、一人ですべてをこなすような超人的な存在はなかなか現れません。今後は、事業分野ごとに責任を担える人材を意識的に育成し、できるだけその人数を増やしていくことが重要です。

大塚グループの目指す方向性について共通認識をつくる

これまでも大塚グループはトータルヘルスケア企業として、「人間が生きるためには何が必要か」を統合的な視点で考え、提供してきました。
大塚グループの特徴は、創業家三代にわたって培われた「常に創造性を追求していく」という思いが生きており、現在に至るまでグループ運営に反映されている点です。他社では実現できないことに挑戦し、「大塚だからできること」「大塚にしかできないこと」を追求し、常に変化し続けることで新しい価値を創造していく。それが大塚グループの存在意義となっています。100年後の大塚グループがどうあるべきかについては、正確な予測は難しいかもしれません。しかし、20年後や30年後の大塚グループの歩んでいく先を考え、大塚の理念の実現に向けてグループ全体の共通認識をつくり、具体的な方向性を指し示すのは、現在の経営陣に課せられた課題の一つであると考えます。


社外取締役  三田みた 万世まよ

取締役会への情報提供の充実

2023年で社外取締役に就任して4年目となりますが、就任1年目は新型コロナウイルス感染が始まったタイミングであったため、現場に足を運べなくなるなど多くの制限の中で職務を行うこととなりました。しかしこうした状況にもかかわらず、提供される情報は年々充実してきています。主要な事業会社からの説明会をはじめ、監査役会や内部監査、内部統制に関与している執行役員とも定期的にミーティングが行われています。さらに、「AIフォーラム」のように大塚ホールディングスで行われる各種シンポジウムにも参加する機会がありました。特にこの1~2年はミーティングの頻度が増えており、より多角的な視点で検討を深めることができるようになってきたと社外取締役の間でも話題になっています。

企業価値を最大化するための戦略の遂行についてさらなる議論を

コーポレートガバナンスをさらに進化させるためには、問題の大きさや、時期に応じた審議の時間配分を考えて、大塚グループの企業価値をいかに最大化させるかを議論する時間をさらに充実させる必要があると考えています。持続性を持った成長を達成するためには、大塚グループ全体のシナジーを生み出す必要があり、前向きな取り組みによってさらに深めることができると思っています。
また、投資家との対話という観点でも、大塚の特徴である多様な事業をより深く理解いただくためには、情報発信に改善の余地があると感じています。グループ全体の資産効率・資本効率を高める経営戦略が打ち出せると、投資家もより会社の成長が明確に見えてくるのではないでしょうか。次年度からの第4次中期経営計画では、こうした視点を盛り込んでくれることを期待しています。

長期的な価値創出を実現する明確な成長ストーリー

大塚グループの特徴は、医薬品とニュートラシューティカルズという主要分野に加えて、医療機器や化学、食品など多くの事業を展開している点です。大塚グループの強みの一つはこの多様な事業展開にあるのですが、一部の投資家は、事業の中でも医薬品の利益率や成長性が目立つため、そこに注目して深く掘り下げる傾向があります。
株主総会の様子からすると、一般の個人株主は、長期的な視点で大塚グループを支持してくれている人が多いように見受けられます。ただ、投資家、特に機関投資家は、各々の専門領域を中心に、非常に多くの企業や事業を調査しているため、大塚グループの全体像が見えにくい側面があるかもしれません。その結果、医療関連事業以外の事業セグメントが適切に評価されないのではないかと推測します。
大塚グループの企業理念に異論を唱える人はおそらくいないでしょう。この理念を実現するために、今後はグループ全体でどのように事業を展開し、戦略を強化していくのか。その視点を投資家だけでなく、グループ内の各事業会社とも共有したうえで、成長ストーリーを明確に説明することが重要です。それができれば、大塚グループ全体の推進力はさらに高まり、持続的な成長を果たしていくことができると考えます。


社外取締役  北地きたち 達明たつあき

中長期投資家との対話を重視し、資本コストに対する意識を高める

大塚グループは、医療という制度の内側と、それのみではケアしきれないヘルスケア領域の事業で社会を両面から支えています。100年かけて培った高いコンプライアンス意識や日本のCGC*特有の地域社会への思いは格別で、ダイバーシティへの取り組みも熱心です。一方この内と外の境界は時代背景や国ごとの制度でステークホルダーへの対応が変わりますが、そこに対処していくために外部に開かれた投資家への貢献の在り方との関わりはまだ短く、大塚らしさと社会から求められていることとの調和の努力は始まったばかりです。例えば、資本コストに対する意識をさらに高めていく必要性を感じます。常に何らかの形でヘルスケアに貢献するグループですので中長期に保有する投資家との対話は重要です。最近取締役会でも事業成長だけでなく、どのような企業価値の表し方、伝え方、資本コスト、投資の評価の議論が活発に出ておりますので、これをより意識していくことが重要であると認識しています。
コーポレートガバナンス・コード

企業理念と資本市場で求められる利益の両立

大塚グループでは、皆さんが高い志を持って事業を行っています。例えば大鵬薬品が主な事業分野としているがん領域では、がんの種類によっては生存率が20%や30%となることも珍しくありませんが、患者さんは、自身がその20%の中に入っていることに懸けて、より効果の高い治療法や新薬などに希望を託しながら治療を受けています。大鵬薬品は、希望を持って諦めずに治療を受け続けている患者さんのため、懸命に開発に取り組んでいます。
こうした各社の努力や成果の芽をいかに守り、適切な投資やサポートをしていくかについては、大塚ホールディングスがより主導的な役割を果たしていくべきであると考えます。
今後、医療の方向性やヘルスケア分野の動向を踏まえて、大塚グループが果たす役割も変わっていくかもしれません。そうした環境変化や事業構造の変化にも対応できるように、高い志に基づいた企業理念と、資本市場で求められる利益をどう両立していくかといった点については、大塚ホールディングスとともに事業会社もより真剣に考えていく必要があると思われます。
特に投資家の利益をどう意識するかという点は、より網羅的に検討すべき段階に来ているのではないでしょうか。資本コストを意識した事業の展開、今後の投資戦略はグループ全体の課題と考えており、取締役会でも問題提起しています。
大塚としてのパーパスを追求しながら、利益や投資配分をどう実現するかについては、グループ内で同じ方向を向いて進んでいく必要があります。まずは大塚ホールディングスで方向性を明示し、各事業会社に向けて意識付けや教育を行うことも検討していく必要があります。

海外グループ企業を持つ大塚だからこそできるリスクマネジメント

リスクマネジメントについて、大塚グループにおけるリスクのうち最も懸念されるのは、医療制度の内側にある事業(医療関連事業)に関わる事業会社が多く、そこからの情報漏洩や、外部から何らかの脅威が与えられる可能性があることです。医療関連事業では人命を預かる事業特性からレギュレーションの厳格な適用が求められるため、こうしたリスクには慎重に対応しなければなりません。
大塚グループの経営は、地域統括会社や中間持株会社のような「ピラミッド型」ではなく、基本的には個々の裁量に基づいて事業を行う「文鎮型」に近い形で運営されています。そのため、他の企業に比べて事業会社ごとの経営の自由度が高く、リスクに関する今後の対応も各社の裁量で柔軟かつ迅速に行っていくことができると考えます。その一方で、リスク対応が可能な人員を育成し、組織をどのように構築するかについては、グループ全体の今後の課題の一つでもあります。
一般的に日本企業はこうしたリスクに対して無防備だと言われています。しかしながら、大塚グループの場合は海外で事業を展開しているグループ会社が多いため、海外子会社からリスクに関する最新の知見を得られることもあるのではないかと考えています。特に規制の厳しい北米で多くの事業会社を持つため、北米のリスクマネジメントの知見を他国・地域でも活かしていくことで、大塚グループ全体のリスクマネジメント力が向上すると考えます。


社外監査役  辻󠄀つじ さちえ

次の100年に向けて、コンプライアンスと内部統制の観点から経営の質の向上に貢献していく

経営におけるブレーキの質を上げることが監査の役割

2022年に社外監査役に就任し、公認会計士および公認不正検査士という資格を保有していることもあり、内部統制やコンプライアンスに関する分野の専門性を持って監査を行っています。この1年で特に印象的なことは、情報提供の機会の多さです。主要事業会社による事業説明、定期的な事業報告会、事業セグメントごとのモニタリング会議など、多くの情報提供を受けて社外取締役や監査役が活発に議論を交わすことも多く、このことがグループ全体のコーポレートガバナンスに寄与していることは間違いありません。
また、企業理念に関してCEOの樋口をはじめとする経営トップが非常に明確に、そして積極的に発信していることも大きな特徴です。創業100周年の記念イベントなどのさまざまな場面で、“Otsuka-people creating new products for better health worldwide”を引用しながら、トップ自らの言葉で多くの時間をとって社員に伝えています。目指す姿が明確であるということは、多様な事業会社を有する大塚グループにおいて、全社が一体感を持って事業を遂行するにあたって大きなプラスの影響を与えていると感じました。
事業を積極的に遂行していくことがアクセルであるとすれば、コンプライアンスや内部統制はいわばブレーキの役割を果たします。経営において安心してアクセルを踏むためには性能のよいブレーキが必要です。通常時に「コンプライアンスが大切です」「内部統制が大切です」と言うことはとても簡単です。問題が発生したときこそ、取締役会や監査役会でどういう議論が行われるかによって、その企業がコンプライアンスとどう向き合っているかがわかります。一つの事例として、2022年に子会社で将来のリスクとなりうる案件が発生した際に、取締役会でその背景にある構造問題にまで課題意識を持って、何度も議論を重ねました。その真摯な対応は、大塚グループにおけるコンプライアンスや内部統制に対する意識の高さを示すものでした。
ガバナンスの観点からも、重要なブレーキの質を高める取り組みが行われているかをチェックすることが監査役の役割の一つだと考えています。大塚ホールディングスが中心となり、グループ全体で日々、アクセルと質の高いブレーキの両方を利かせる意識をし、考えていくことが大切です。

高いコンプライアンス意識を保ち、より効率的な組織構築に向けて

大塚グループは、医薬品や機能性飲料・機能性食品に関する製品やサービスを主に取り扱っていますが、これらは人体に直接影響を与えることの多い事業領域でもあります。そのため、特に安全性に関するコンプライアンス意識が高く、規制やルールに対しても堅実に遵守する企業文化が根付いていると言えます。現在のコンプライアンス意識が保たれている限りは、会社の存続に直接影響を与えるような重大なコンプライアンス違反が直ちに起こることはないと思われます。しかし、コンプライアンス意識は放っておくとすぐに後退して、かえって大きな問題が発生する可能性もあります。
コンプライアンスは製品の安全性に関するものだけではありません。例えば、労働環境や会計処理など、さまざまな領域においてもコンプライアンスが問われる場面があります。特にハラスメントに関する概念は常に変化しており、社会や国・地域の状況によってその概念も変わってきます。適切に対応していたつもりがいつの間にか時代遅れになっていたという事態に陥らないよう過去の失敗事例からも学びながら、組織としての意識や取り組みを常にアップデートする必要があります。
グループ全体におけるリスク管理では、個々の現場でリスク情報を抱え込まないこと、つまりリスクが顕在化された際に、迅速に状況を把握し、グループ全体で対応できる組織であることが、大変重要です。その点で見ると、大塚グループの運用はやや複雑であるように見受けられます。運用自体は誠実に対応されているのですが、そもそも多くのグループ会社で構成されているため、状況把握にどうしても時間がかかり、背景理解のための説明が多くなってしまう場合もあります。これらは今後の工夫次第で、さらに効率化を図ることができるように思います。コンプライアンスや内部統制を滞りなく機能させ、生きた制度とするためには現状のような複雑さを前提とした運用ではなく、根本のところで「それで本当にいいのか?」「それは本当に必要なのか?」と問い続けていくことも大切な観点になると考えます。

次の100年に向けて、サステナビリティ経営のために必要なこと

監査役会では、サステナビリティ経営に向けての取り組みを2023年の主要な監査テーマの一つに掲げています。経営の重要なテーマですから当然監査においても重点テーマとなります。大塚グループは、「健康に貢献する」という企業理念を掲げていることや多くの国でビジネスをしてきていることからサステナビリティに対する意識は高いように感じています。今後はその取り組みを高度化し、多くのステークホルダーに説明をしていくことが必要です。
そして、企業のサステナビリティを強化していくためにも、コンプライアンス重視の姿勢を継続していくことは重要です。コンプライアンス重視の姿勢自体が直接業績に繋がることはありません。一方で対応を怠るとこれまでのステークホルダーとの信頼関係を一気に失ってしまう可能性があります。そのような事態にならないためにも、大塚ホールディングスだけでなく、各事業会社の経営トップも含めて本気でコンプライアンス重視の姿勢を示し続けることが重要です。このような取り組みはグループ会社の監査役とも連携をとって監査してきたいと思います。
私は、良い会社とは、そこで働く人たちが自社を誇りに思い、ひいてはステークホルダーが「なくてはならない」と思えることだと考えています。大塚グループが次の100年に良い会社として持続的な成長を果たすことができるよう、他の監査役と議論、連携しながらコンプライアンス・内部統制というブレーキの質の向上に貢献し、経営の質を高めていきたいと思います。


社外監査役  大澤おおさわ 加奈子かなこ

複雑性を増しながら激しく変化する時代において、グループ全体の成長を実現するために、大塚ホールディングスが果たすべき役割とは

サプライチェーンのコンプライアンスが問われる時代になった

新型コロナウイルス感染拡大やロシア・ウクライナ紛争などにより、世界におけるサプライチェーンの潮流は急激に変化しつつあります。世界中から安価なものを集めてコスト低減を図るグローバルサプライチェーンから、地域ごとのサプライチェーンを確保することで製品の安定供給を図るブロックサプライチェーンへの移行です。加えて人権意識の高まりなどによりサプライチェーン上のコンプライアンスが問われるようになり、こうした変化に対応した新しい法令や規制が次々と生まれています。
日本の企業でも対応を急いでおり、サステナビリティ委員会などを組織するものの、目的意識が明確でないなど運用面での課題があるため、リソースを割いた分の成果を得ることがまだ難しい状況にあります。こうした中、大塚ホールディングスでは、内部監査やサステナビリティ推進委員会の報告書は、経験豊富な担当者によって責任を持って書かれているとわかるレベルの高い内容となっており、取り組み状況について、ガバナンスやリスク管理に十分なリソースを割いていることがわかります。
私は2022年から社外監査役として取締役会に出席しています。取締役会では多様なバックグラウンドを持つ社外取締役が常時、それぞれの知見をもとに活発な意見を述べておられますし、また執行側には多様な意見を受け入れる度量があると感じており、社外からの目線は相当重視されている印象があります。さらに進化していくためには、売上収益のうち約4割が北米であることから、今後、米国系のバックグラウンドを持つ方の取締役会への参画も検討に値すると思います。よりグローバルな目線を取り入れることができ、取締役会の実効性がさらに高まると考えます。

イノベーティブな組織として成長するために

大塚グループは、「世界の人々の健康に貢献する」を企業理念や目指す姿としており、そもそも事業自体にCSV(Creating Shared Value)との親和性があります。さらに、企業の存在意義や企業理念に対しても経営トップが明確な方向性を定期的に発信するだけではなく、社員のコミットメントも高いことが、サステナビリティ関連の取り組みや監査などの充実した情報発信につながっていると感じます。
ただ、理念や方向性が明確である一方で、グループ自体の組織の複雑さには一定の課題があるように見受けられます。国内外に事業会社が多く存在し、事業会社の間でも一部のビジネスが重複しているなど、グループ全体の事業や組織の階層が複雑な構造となっています。社外監査役の視点から、組織が、企業文化を体現するに足る合理性・効率性を持ち、社員の方を活かすことができる会社組織を、より追求できる余地があると感じています。
例えば冒頭で述べたとおり、海外では企業活動に対する規制が厳格化しており、ソフトローにおける対応も求められています。しかし事業規模や人員確保の問題から、すべてのグループ企業において個別に対応を求めるのは現実的ではないように思われます。今後は、ホールディングス主導で、法令や規制などの中間業務対応の専門バックオフィスを組織するなど、ある程度一元管理できる仕組みを構築することが求められるのではないかと思います。事業と地域の実情に合わせた柔軟な対応を図ることで、グループ企業各社がそれぞれの事業活動に注力できるようになり、よりイノベーティブな組織へと成長できるようになるでしょう。
大塚グループが、トータルヘルスケア企業として成長を遂げていくために監査役である私が貢献できることは、弁護士の立場から純粋な社外の目を持って、ここは大丈夫か、なぜここはこうなっているのかなどと問い続けることだと考えています。ガバナンス向上のため、今後も引き続き課題の明確化に貢献できるよう、問題意識を持って提起し続けていきます。

ESGへの取り組みは長期的な目線で評価していく

証券会社のアナリストレポートでは、短期的なタームで評価されがちです。しかし、人材育成や環境問題など、サステナビリティに関する取り組みは一朝一夕で成果が出るものではありません。さらに、世界的なサステナビリティ意識の高まりに伴い、企業は財務的な利益のみを追求していればよいという時代ではなくなっています。
大塚グループは、多くのステークホルダーを持ち、グループ会社の事業形態も多岐にわたりますが、全体的にサステナビリティ課題に対しては強い意志を持って推進していると評価しています。例えば、大塚化学の経営陣に話を聞くと、自社の事業特性や環境負荷の高さを十分に理解し、ハードルの高さも認識されたうえで対応をするべく取り組んでおられます。

社員が活き活きと事業に取り組むことができる企業風土づくりを

大塚ホールディングスの従業員の方と話をしていると、皆さん明るく率直な印象を受けます。それでいて最後まで諦めずに取り組む粘り強さもあります。良い会社であるためには、個々の従業員のレスポンスが良く、当たり前のことを当たり前に口に出せる風土が必要ですが、当社ではそのような風土が醸成されているように感じます。逆に上司の顔色や前例を過度に気にして従業員が発言をためらう会社はガバナンスに不安があることが多いように思います。
大塚グループが日本の企業の中でも際立っている点は、企業理念を経営トップが強く発信し、これが共有されて実際の事業に活かされているところにあります。従業員の皆さんは、自社の製品が確固たる理念とエビデンスのもとに開発されていることを誰よりも知っています。そのため、自分たちの取り扱う製品に自信を持ち、短期的には利益を得られなくても、優れた製品を提供することで必ず市場に受け入れられる信念を持って市場開拓を続け、忍耐強く取り組むことができるのです。そうした意味では、彼らの明るさや粘り強さは、企業理念のもとで自社の事業に前向きに取り組めていることと無関係ではないように思います。今後も優れた人材がより活き活きと活躍できるよう、組織的な課題解決の実現やグループ間の協働を推進し、元気な会社としてさらに強く伸びていってほしいと思います。

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