CFOメッセージ

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第3次中期経営計画の振り返り

大塚グループでは、第3次中期経営計画期間を「独自のトータルヘルスケア企業として世界に躍進する5年間」と位置づけ、「既存事業価値の最大化と新たな価値創造」「資本コストを意識した経営の実践」に取り組むことで持続的な成長を維持し、成長投資と株主還元の両立に注力してきました。第3次中期経営計画期間中は、パンデミックや地政学的リスクの高まり、エネルギーコストや原材料費の高騰などの外部環境の影響を受けましたが、強みである医療関連事業およびNC関連事業の両輪を活かし、事業は力強く成長しました。
2023年度の売上収益は2兆186億円となり、最終年度目標の1兆7,000億円を大きく上回る過去最高の業績を達成し、2018年度以降の売上収益は年平均成長率9.3%となりました。また、医療関連事業とNC関連事業でグローバル展開を進めた結果、売上収益に占める海外比率も50%から67%に増加し、着実に拡大しています。事業利益は最終年度目標の2,000億円を大幅に超える3,126億円となり、2018年からの年平均成長率も10%以上という目標を大きく上回る20.9%となりました。
医療関連事業においては、成長ドライバーであるグローバル4製品(エビリファイ メンテナ、レキサルティ、サムスカ/ジンアーク、ロンサーフ)や5年間で上市した新製品の貢献により、事業価値を最大化することができました。NC関連事業においては、成長ドライバーである「ネイチャーメイド」が大きく伸長し、1,000億円ブランドに成長しました。これは消費者の健康管理意識の高まりに加え、当社グループのこれまでの活動が、ブランドに対する高い信頼性を獲得してきたことが要因であると考えています。「ポカリスエット」はこれまでに築いてきたブランド力を活かし、アジア・パシフィックエリアの売上収益を伸張させています。これら「ネイチャーメイド」「ポカリスエット」の伸長等により、NC 関連事業の海外売上構成比は2018年の海外売上構成比56.7%から9.3%ポイント伸長し66.0%に拡大しました。両事業の成長ドライバーの売上収益は、連結売上収益の増加額7,266億円の87%を占めており、第3次中期経営計画の好業績に大きく貢献しています。
第3次中期経営計画期間は、「資本コストを意識した経営の実践」の導入期間として位置付けており、中長期にわたる経済的価値を創出し、ステークホルダーの皆さまに将来の社会価値創造への挑戦を理解・評価いただくための財務基盤の仕組みとして、ROICマネジメントの導入とグループ会社への浸透を進めてきました。業績管理指標として理解の浸透、販売管理費の最適化などによる事業価値の最大化、政策保有株の見直しや遊休不動産の活用など、地道な資産効率化に取り組み、成果は着実に得られています。この5年間の平均ROICは5.9%となり、第3次中期経営計画で設定した資本コスト(WACC)5.5%を上回る数値となりました。既存事業価値の最大化によるキャッシュを獲得したことで、新たな価値創造に必要な成長投資を実践しつつ、第3次中期経営計画期間中に現預金約2,000億円を増加させ、次期中期経営計画への株主還元と成長投資資金の原資を確保することができました。

第3次中期経営計画の振り返り

第4次中期経営計画の財務方針

財務目標

大塚グループは、事業活動によって生み出された研究開発費投資前営業キャッシュ・フローを、成長の源泉であるパイプラインや創薬基盤技術、NC製品のブランド価値、人財育成に投資し、将来の成長原資となる新たなキャッシュを創出しています。この投資と成長のサイクルにより成長を実現し、企業価値向上に努めてきました。東証上場以来の株価実績推移を見ると企業価値は確実に増大しており、当社グループの事業拡大策や収益改善策が一定程度、株式市場から評価されてきたことの表れと考えております。
2010年12月の上場時には、株式市場から「エビリファイ」の米国での独占販売期間終了(LOE*1)を懸念する指摘があったものの、当社グループでは、第2次中期経営計画にかけて、「エビリファイ」のLOE以降、医療関連事業のグローバル3製品(エビリファイ メンテナ、レキサルティ、サムスカ/ジンアーク)、次世代製品の「ロンサーフ」などの成長ドライバーの育成、NC関連事業の高マージン戦略を実施し、収益の多様化を進めました。さらに、第3次中期経営計画期間を「エビリファイ メンテナ」「ジンアーク」のLOEに対応する準備期間と定め、次世代の成長ドライバーの育成に取り組んできました。これらの施策と、これまでの成長投資による事業拡大策および収益改善策により、WACCを超える安定したキャッシュ創出能力を実現できました。
第4次中期経営計画では、現在の主力製品のLOEに対応する成長投資を積極的に実施するとともに、資本効率を意識した高度な経営視点で事業展開を進めることで、2028年に売上収益2兆5,000億円、研究開発費投資前事業利益7,200億円、事業利益3,900億円、EPS550円、研究開発費投資前営業キャッシュ・フロー6,500億円、資本効率ROE 10%以上、ROIC9.5%以上を目指します。

*1 独占販売期間終了:Loss of Exclusivity

株価実績推移

キャッシュ・アロケーション

第3次中期経営計画期間中は、好調な事業利益や資産効率改善に努めた結果、5カ年累計の研究開発費投資前営業キャッシュ・フローは、2兆3,365億円となりました。獲得したキャッシュは、積極的な研究開発投資として累計1兆1,816億円、新たなパイプライン獲得や海外展開に伴う設備投資等の成長投資4,969億円に活用し、配当金として2,785億円を株主の皆さまに還元しました。さらに、医療関連事業だけでなく、NC関連事業を中心とした医療以外の事業からの安定したキャッシュ創出により、現金及び現金同等物は2,283億円増加し、5,133億円となっています。
第4次中期経営計画では、5カ年で獲得する研究開発費投資前営業キャッシュ・フローの約3兆円に、第3次中期経営計画期間で増加した約2,000億円の現預金を加えることで、第3次中期経営計画期間を超える約3兆2,000億円の原資確保を計画しています。研究開発費約1兆5,000億円は、医療関連事業での創薬基盤技術となる基礎研究、後期の臨床開発を進めるために精神・神経領域、がん領域と循環器・腎領域を中心に投資する予定です。また、NC関連事業は、継続的に新製品の開発に投資する予定です。設備投資の約5,000億円のうち、約半分は成長投資に充て、海外の「ポカリスエット」生産力強化のための工場建設に対する投資、残りの半分は、環境に配慮した既存設備の維持更新への投資を予定しています。
外部資産の獲得では、第5次あるいは第6次中期経営計画の成長に貢献するようなパイプライン獲得ならびに、パイプラインを継続的に生み出すような創薬技術の獲得やコラボレーションのほか、現在強みを持つ領域をベースに、より広く社会課題に貢献できるような疾患領域のパイプライン拡充も進めていきます。また、地域的な観点では、米国を含むグローバルのパイプラインの拡充だけでなく、日本・アジア・欧州などの特定地域において、自社の販売網を活かせるパイプライン獲得も考慮し、外部資産の獲得を進めていきます。

キャッシュ・アロケーション

企業価値向上に向けた取り組み

新たな価値創造をサポートする財務戦略の枠組み
成長投資資金の源泉

成長投資資金は原則として、事業からのキャッシュ・リターンを源泉としており、大塚グループ内の資金は、日本、米国、中国を中心に構築されたキャッシュ・マネジメント・システム(CMS)によって、事業セグメント横断的に有効活用しています。外部からの資金調達が必要な場合には、コマーシャル・ペーパー(CP)、社債、銀行借入、株式発行など複数の調達手段により、事業の成長機会を逃さないよう臨機応変に対応できる体制になっています。また、サステナビリティ経営の推進として、第4次中期経営計画期間中にグリーンボンドの発行も検討しています。

成長投資資金の配分

大塚グループは投資にあたって、イノベーションにより社会に貢献することを重視しており、企業価値向上と社会貢献を実現するための投資案件であれば、継続して挑戦していきます。外部資産の獲得の基本的な方針は従来通り、長期戦略に合致し、既存の経営資産とのシナジーを生み出せる領域への投資です。投資の再配分に関する具体例として、医療関連事業では、パイプラインを継続的に生み出すような創薬技術の獲得やコラボレーション、重点領域である精神・神経領域、がん領域、循環器・腎領域における製品・パイプライン強化を目的とした持続的な研究開発投資だけでなく、循環器・腎領域の新たな治療選択肢となる超音波腎デナベーションシステムにも投資しています。NC 関連事業では、新エリアへの販路拡大投資に加え、新製品価値の訴求によるブランド構築と生産・販売体制の強化に投資しています。

成長投資資金の配分

資本コストを意識した経営の実践

大塚のイノベーションを支えるROICマネジメントは、短期的な資本効率の改善だけではなく、中長期的な企業価値の向上に資する重要な施策と考えています。財務面から、大塚の企業文化である「大塚だからできること」「大塚にしかできないこと」を実践し続けるための安定した財務基盤を構築することが、イノベーション創出による社会貢献につながると考えています。第4次中期経営計画期間では、資本コストを6%に設定し、本格的な運用を実践していきます。中核となるROICの向上には、事業からのキャッシュ・リターン(研究開発費投資前営業キャッシュ・フロー)の最大化と、投下資本の最適化が重要な施策となります。

キャッシュ・リターンの最大化

キャッシュ・リターンの最大化は、医療関連事業では治療薬、臨床栄養、医療機器等の事業特性に応じたKPIを、NC関連事業では成長市場エリアへの事業展開に合わせたKPIを設定し、事業推進のKPIマネジメントを実践することで実現を図ります。併せて、第3次中期経営計画以前から推進している継続的なコストコントロールと、各エリアにおけるシェアードサービスの取り組みの高度化も行っていきます。

投下資本の最適化

投下資本の最適化は、資産効率化、財務安定性・効率性、株主還元の3つを柱に実践していきます。
①資産効率化
資産効率化は、投資規律の強化に基づく事業資産の活用を行うなど、グループ会社全体最適を考えた事業資産のコントロールを強化し、ROAの向上を目指します。また、売掛債権、在庫管理の最適化により運転資本のコントロールを強化し、CCC*7の改善を目指します。非事業資産については、政策保有株式の定期的検証と組み換えなどを推進し、投下資本の質的向上を図ります。
②財務安定性・効率性
財務安定性は、外部からの資金調達が必要な場合、グリーンボンド発行を含めた資金調達の多様化、為替予約などの財務リスク管理を実践することで、R&Iの格付けをAA-以上に維持し、安定的な財務基盤を確立します。
財務効率性は、CMSの活用により事業に必要な待機資金をコントロールすることで、有利子負債を圧縮し、向上を図ります。
③株主還元
株主還元につきましては、安定継続的な配当を行うことを基本としています。安定継続性を重視しつつ、成長投資に必要な内部留保や財務状況、最適資本構成を総合的に勘案して配当額を慎重に検討しています。
第3次中期経営計画期間までの成長投資の成果により、第4次中期経営計画期間の持続的成長が見通せる状況になったため、2023年度の期末配当から増額を決定しました。安定継続的な配当の実施に加え、第4次中期経営計画期間中に自己株式の取得約500億円を実施予定です(2024年7月時点)。第4次中期経営計画期間中の株主還元の追加策は、第5次中期経営計画以降の持続的成長が見通せる状況となり、第4次中期経営計画期間に事業から得られたキャッシュの上振れ、株主還元指標の一つである株主総還元性向の状況など、多角的な観点から柔軟に検討していく予定です。

*7 Cash Conversion Cycle

大塚グループのROICマネジメント

2024年9月12日
取締役 CFO

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