トータルヘルスケア企業としての中長期ビジョン
大塚グループは、「Otsuka-people creating new products for better health worldwide-世界の人々の健康に貢献する革新的な製品を創造する-」を企業理念に掲げ、一人ひとりの健康に向き合う「トータルヘルスケア企業」として、製品やサービス・情報の提供を通じて、地域社会全体の健康と幸福を支えること、つまり、社会全体のウェルビーイングに貢献することを目指しています。この企業理念は、1921年に徳島で創業した小さな会社が、常に描き続けてきた大きな志です。
現在、私たちを取り巻く環境は急速に変化し、気候変動、女性活躍、少子高齢社会、AIなどの技術革新、サイエンスの発展、感染症など、社会に大きな影響を与えるさまざまな事象が顕在化しています。これらのトレンドは、私たちの事業戦略や製品開発にも大きく関わるため、その理解と適応が不可欠です。
このような認識のもと、2024年6月に発表した第4次となる中期経営計画では、大塚グループが注力する社会課題を「地球環境」「女性の健康」「少子高齢社会」の3つとし、2035年に目指す姿を示しました。その達成のために、個別化医療や病気の克服を目指す治療法の開発、個別化されたヘルスデータとデジタルを活用した新規健康価値の提供、ならびに世の中の変化に適応しライフステージに合わせた健康ソリューションの提案に取り組んでまいります。トータルヘルスケアをコンセプトに、3つの社会課題に向き合い、診断から治療をカバーする医療関連事業や、予防・健康増進をカバーするNC関連事業のほか、明確にカテゴライズできないような複合的で新しい健康価値の創造にも挑戦し、より包括的なヘルスケアソリューションの提供に取り組みます。「Better healthからBeyond health、そしてウェルビーイングへ」というテーマで、健康をより広い範囲で捉え、一人ひとりの健康に向き合い、事業を進めてまいります。
グループの規模が大きくなってきた現在、さらに事業を発展させるために2024年1月より新設したCOOのポジションをはじめ、それぞれの経営陣や部門のリーダーが役割分担をすることで、グループ会社が協働して経営を進める体制としています。これにより、経営のさらなる強化と充実を図り、中長期のビジョンに向け、戦略の実行の部分まで注意深くマネジメントできる環境を整えることができました。
投資と成長の循環が作り上げたトータルヘルスケア企業
大塚グループは1921年、徳島県で塩田の残渣(にがり)から局方炭酸マグネシウムを作る化学原料メーカーとして創業しました。いわば、地域の特性を生かして原料供給を行うB to B企業としてスタートし、そこから大きな投資を行う決断をして日本を代表する輸液メーカーへの一歩を踏み出しました。その成功を受けて「オロナイン軟膏」の開発・成長に取り組み、さらに「オロナミンCドリンク」「ポカリスエット」などのB to C事業にシフトするという、事業への挑戦と成功の連続が、次の成長への投資につながる循環を実現し続けています。「ポカリスエット」の伸長は、アメリカにおける医薬品の臨床開発の原資となり、現在の医療関連事業の成長の礎となっています。大塚は常に、市場や経済の動向をいち早く捉え、取り組んだ事業から得られた利益を、次の成長を見据えて新たな事業に投資するサイクルを繰り返してきました。この投資と成果の好循環が、現在の大塚グループの成長につながっています。
企業の規模が拡大し、事業のグローバル化が進むにつれ、多様な文化や経済状況に柔軟に適応する必要性が高まっています。大塚グループでは、グローバルな視点とローカルな実践を組み合わせる「マルチグローカル」なアプローチを重視しています。例えばアジアにおける「ポカリスエット」の展開では、エリアごとの内需に対応するために現地での生産を行い、各地域に合わせた戦略を取っています。このような地域や事業特性を踏まえた戦略、さらに新しい事業・製品コンセプトの実現に取り組んできた結果が、現在の売上収益2兆円という規模への成長につながりました。しかし、私は数字そのものよりも、その数字を生み出す背景が大切だと考えています。すなわち、現在行っている事業の質と、次につながる新しい種を生み出せたかが問われるべきだということです。
大塚武三郎をはじめとする歴代の経営者はそれぞれ、個人の欲ではなく事業への熱意から仕事には非常に厳しく取り組み、同時に社員に対する感謝の念を強く持っていました。そのことが大塚の魅力ともなり、社員をはじめとしたステークホルダーから信頼を得てきたと実感しています。そして創業家の事業への熱意やひたむきさは大塚グループの遺伝子である「流汗悟道」「実証」「創造性」という言葉に受け継がれています。この大塚の企業文化が礎となり、数々のイノベーションを生み出してきましたが、私はそれを再現性の高いものにしなければならないと考えています。
第4次中期経営計画で目指すもの
第3次中期経営計画は、最終年度の売上収益が2兆円を超え、目標を達成して終了しました。医療関連事業ではグローバル4製品が大きく成長し、NC関連事業でも機能性飲料やサプリメントが順調に伸長することで、事業で稼ぐ力を表す研究開発費投資前事業利益は約6,200億円となりました。大塚グループではその約半分を研究開発費に充て、研究テーマを進捗させることで次の成長ドライバーを育成しています。テーマの選定については、当然すべてが成功するわけではありません。例えば、複数のプロジェクトがあった場合、その半分が前進して結実し、結果的にその中の一つでも大きく社会に貢献できればよいと私は考えています。
当社が2010年に上場したことにより、大塚グループは投資家や株式市場に対して企業活動の説明やより高い透明性の確保という責任がもとめられ、私たちの成長に対する意識は、社内的視点から社外的評価へと変化しました。その後、3度の中期経営計画を通じて大型製品の育成に取り組み、中長期的な成長の種とすることができました。この15年間のプロセスを通じ、人財・組織のケイパビリティが高まり、長期視点における投資とその成果が得られ、海外展開力も強化されるなど、確実に経営の質が進化しています。第4次中期経営計画期間では、「新規事業の拡大と次世代の成長を生み出す投資を促進~創造と成長の5年間~」をテーマに位置づけ、予防・健康増進、診断から治療までのトータルヘルスケアをコンセプトに、先に述べたように「地球環境」「女性の健康」「少子高齢社会」という社会課題に重点的に取り組んでいきます。
イノベーションを再現可能にする仕組みを構築
イノベーションは、常に情報を集めて考え、仮説を立てて実験を行い、検証をすることの繰り返しで生まれると私は考えています。そのためには、知識やネットワークを広げることが重要であり、社内外のコミュニケーションを強化し、予期せぬ発見からイノベーションにつなげる仕組みを体系的に構築する必要があります。これは、従来は無意識に行ってきた過程を再現可能な形にするための取り組みであり、グループ内で事業会社の社長も務めてきた私のライフワークとしています。
イノベーション創出基盤の重要な要素は、事業コンセプトの立案、高い人財と組織のケイパビリティ、企業文化の醸成で、これらを通じてイノベーションを生み出す環境を整備してきました。人財のケイパビリティの向上は最も重要な要素の一つで、ユニークな事業を通じて数々の挑戦の機会を提供し、その課題を乗り越えることで、人財が成長することを期待しています。そのために多様な研修を企画し、実施するとともに、社員一人ひとりには、日ごろからさまざまなことに好奇心を抱き、考える習慣を持ちながら、物事を成し遂げることを求めています。さらに、自社のアセットだけではなく、お互いの強みが共鳴するようなアカデミア・企業との提携や、M&Aによる新規技術の拡充、ノウハウを積極的に取り込み、より強固なイノベーション創出基盤へと進化を続けています。
このイノベーション創出基盤から多くの種を生み出し、社会課題や社会構造の変化に対応し、技術革新を取り込みながら丁寧に育て、新たなイノベーションへとつなげます。さらに、イノベーションを世の中に届けることから得られるインサイトや知見をフィードバックすることで、このイノベーションを絶え間なく創出する仕組み、いわゆるイノベーション・エコシステムは進化していきます。これらの活動を通じてウェルビーイングな未来を創り出し、企業理念の実現に向けて事業を展開していきたいと考えています。
ビジョン実現に向けてステークホルダーへのメッセージ
大塚ホールディングスは常に、成長とリターンの実現を目指し、株主やステークホルダーの皆さまに対しては適時、明瞭かつ十分な情報を提供して、信頼関係を築いてまいります。これにより、経営の透明性を高め、企業の健全な成長を支える基盤を強化します。
大塚グループは、生命関連企業です。製造業として、良いものを作るということは至上命題であり、たとえそれが大きな費用を必要とすることになったとしても、理念と矛盾する方向には進みません。当社の社員には、その方針に共感し、一緒に取り組んでくれる人財であることを望んでいます。
大塚グループは、大塚の遺伝子である「流汗悟道」「実証」「創造性」を受け継ぎ、「大塚だからできること」「大塚にしかできないこと」の実践に努めていきます。革新的で創造性に富んだ医薬品や機能性飲料・機能性食品などの幅広い製品・サービスを通じて、世界の人々の暮らしをサポートするため、イノベーションにより、常に新しい価値を生み出し続け、ステークホルダーの皆さまとともに、社会全体のウェルビーイングの実現を目指してまいります。今後も引き続きのご支援を賜りますよう、何とぞよろしくお願い申し上げます。
2024年9月12日
代表取締役社長 兼 CEO