

大塚グループは、2021年9月に創業100周年を迎えました。
このような大きな節目を迎えることができたのは、生活者の皆さま、患者さん、医療関係者、取引先、地域の方々など多くのステークホルダーの皆さまのご支援のおかげです。
あらためて心より感謝申し上げるとともに、これからの100年に向け、「大塚だからできること」を実現し、「大塚にしかできないこと」に挑戦し続け、世界の人々の健康への貢献に社員一同取り組んでまいります。
100周年と大塚の価値観
大塚グループは、1921年に化学原料メーカーとして徳島県鳴門の地で創業しました。幾多の苦難を乗り越え、100年にわたり事業を継続できたのは、「流汗悟道」「実証」「創造性」といった、これまでの創業者の教えが事業の根底に存在し、現在も脈々と継承されているからだと考えています。
「流汗悟道」は、大塚グループを創業した大塚武三郎氏の言葉で「何事も自分で努力して汗を流し、実践してみないと物事の本質や真実はわからない」ということです。例えば、創業当時、炭酸マグネシウムの品質問題に直面し、行き詰まった末に、解決策が偶然に見つかりましたが、それも日ごろの努力のゆえにもたらされたことでした。地道にひたむきな努力を続けることで事業の基盤を作ることができたわけです。
「実証」は、二代目の大塚正士氏が残した言葉で「仮説を立て挑戦し、実現する」という意味です。医薬品の場合「承認のちょっと手前、99%の達成でした」というのは、非承認ということです。つまり自分では1%未達だと思っていることが、実はこの中に大きな課題があったことで現実の道は遠かったということを初めて認識するわけです。また正士氏は、「人生は知ることではない、行動することだ」といった言葉の中に、この1%のギャップをあらゆる行動で克服するプロセスを意味しています。私は若いころ最初にこの言葉を聞いた時に、「そうは言うけれど、まずは勉強して知ることが大事なのではないか」と考えました。しかし、「工場の生産現場で実際にどのように製品が作られているのか」「売り場では消費者がどのような反応をしているのか」「なぜ消費者がこの製品を選んでいるのか」といったことは、やはり現場に赴き、自分の目と耳で実際に確認することでその本質を知るということが後でわかりました。いわゆる「知ること」は当然であり、それは行動することによって本当に認識し自分の理解となるわけです。
「創造性」は、三代目の大塚明彦氏の言葉です。この考えは、大塚製薬の工場・研究所の理念として1970年代に制定され、現在の大塚グループの企業理念 “Otsuka-people creating new products for better health worldwide”にも反映されているメッセージです。明彦氏は、「革新性、イノベーションが問われている」ことを、40年以上前から説いていました。世界に通用するためには、「他社がやらない困難なテーマに挑戦することで、結果的に革命をもたらすような革新的な製品の開発に繋がる」という考えのもと、一貫して革新性、創造性を説き、それは「エビリファイ」や「サムスカ/ジンアーク」などの画期的な新薬のほか、「ポカリスエット」「カロリーメイト」といった新カテゴリーの創造にも結びつきました。
三氏に共通しているのは、常に目の前にある物事を真摯に捉え、そして色々なことに対して労力を厭うことなくまずは行動を起こしていることです。行動することによって失敗が生じることもあるでしょう。しかしそれによる発見もあります。まずは挑戦し、あきらめることなくそれをやり続けることにより、本質を追究していこう。そのような姿勢が企業の文化や風土、また社員に受け継がれています。

外部環境(リスクと機会)の変化を踏まえた戦略推進
2019年に発生した新型コロナウイルス感染拡大によるパンデミックは、人々の生活だけではなく、さまざまな産業構造、ビジネスモデルにも多大な影響を及ぼし、医薬品業界を取り巻く環境も急激かつ著しく変わりました。現在、この地球上においては、深刻な地政学的変動とサプライチェーンや原材料高のリスク、地球環境問題、人口問題、人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)の進化など、さまざまな事象とそれらに伴うリスクと機会が存在しています。このような時代の中、将来世界がどのような姿をしているか想像することは非常に難しくなっています。大塚グループが世界の人々の健康に貢献する、なくてはならない企業を今後も目指すためには、10年後、20年後そしてさらにその先に望まれることをその時々で常に見据え、そして機動的に行動していくことが必要です。
第3次中期経営計画においては発表時の2018年度には想定していなかった社会環境の変化が生じています。しかし、従来から大塚は現状に慢心することなく、注意深く時代の変化を捉え、柔軟に対応して進化を遂げてきたことから、パンデミックによる社会環境の変化にアジャストし、計画との整合性をとりながら経営を進めています。ニューノーマルの時代の中、人々の健康意識の高まりを成長機会と捉え、今こそ「独自のトータルヘルスケア企業」の真価を発揮することが大塚グループのあるべき姿だと考えています。
医療関連事業では、グローバル4製品が第3次中期経営計画での売上目標を2年前倒しで達成しました。また、社会環境の変化に適応すべく、研究開発ではバーチャル臨床試験の実施、生産では安定供給体制の維持に向けたBCP*1の一層の強化や省人化への技術開発、販売ではリアルとデジタルの融合によるハイブリッド型情報提供活動の推進などを実施しました。さらに、新たなイノベーション創出に向け、大塚製薬が大阪創薬研究センター(仮)を新設したほか、大日本住友製薬(株)(現 住友ファーマ)、サノビオン社と精神神経領域における協業を開始しました。 NC関連事業においては、グローバル展開、新分野(新コンセプト/新カテゴリー)、高マージンを戦略とし、コンシューマ・ヘルスケア市場でのプレゼンス確立に注力しています。健康への意識の高まりや、女性のさらなる活躍などのニーズを的確に捉えた戦略を推進しています。
第3次中期経営計画の中間年となる2021年度は、売上収益はほぼ当初計画どおり達成しました。事業利益は、機動的に成長投資を実施した事もあり計画を下回りましたが、ROICを意識した規律ある投資と販売管理費のマネジメントを通じて、2023年度事業利益2,000億円の目標を超えるよう今後一層努力していきます。
これからの100年に向けて大塚が目指す姿
大塚グループが100年もの間事業を継続できたのは、ステークホルダーの皆さま方のご支援、そして前述の根底にある大塚の創業者の教えがあります。しかし、そういった普遍の考え方がある一方、市場環境の変化、テクノロジーの進歩そして地政学的リスクに順応し、事業の捉え方や実行の仕方について変わり続けることも必要です。時代や地域の要請に合わせ、変わり続けなければ、変化する環境にも柔軟に適応ができません。持続的な成長を実現するためには固定観念や既成概念にとらわれず多様な意見を積極的に取り入れ、実行に移してみることです。挑戦しない限りは前には進めず、イノベーションも起こりません。多様性の中から生まれた意見、そして挑戦の中からイノベーションは生み出されるのです。
また事業の遂行において重要なのは、「理念」「文化」「個人・組織の能力」だと考えています。大塚グループには“Otsuka-people creating new products for better health worldwide”という普遍の企業理念があります。混迷の時代だからこそ、確固たる考え方をバックボーンに持つ会社は強いといわれます。変化や失敗を恐れず、新しいことに挑戦する。そして、挑戦することで得た気づきを次の取り組みに活かすことで、「個人の能力」は自ずと高められ、またその個人が構成する「組織のマネジメント能力」も進歩していきます。
大塚グループは「独自のトータルヘルスケア企業」として、病気の診断・治療から健康の維持・増進に至るまで、独創的な製品・サービスの開発・展開を通じて世界の人々の健康に貢献してきました。今後は、デジタル化が進むことにより、医療とデジタル技術が融合した医薬品や治療法、診断や病気の予知が進み、変化が訪れようとしています。私たちはその時代時代や地域において望まれるヘルスケアに関するあらゆるニーズに対し、十分にサービスや製品が提供できる会社でありたいと考えています。多種多様な事業を持っている大塚グループだからこそ、グループ内の連携や協業を加速させ、ゆるぎない企業理念を追求し、人々の「健康」に貢献することが大塚グループの持続的な成長を支え、これからの100年、さらにその先にあるサステナブルな社会の実現にも貢献するものと信じています。
地球環境問題やさまざまな社会課題などの解決への貢献については、2019年にサステナビリティミッションを、2021年には2050年に向けた環境ビジョン「ネットゼロ」を掲げました。また、環境におけるマテリアリティとして新たに「カーボンニュートラル」「サーキュラーエコノミー」「ウォーターニュートラル」と定め、さらなる積極的な取り組みを推進するため、中期目標も設定しています。またTCFD*2の提言に基づき、気候変動が事業にもたらすリスクや機会についての分析と対応なども進めています。
ステークホルダーの皆さまへ
人類は過去においてもパンデミックによって大きな影響を受け、そのたびに知恵と技術革新を駆使して乗り越えてきました。今回の新型コロナウイルスによるパンデミックでも、いかに共生していくかが世界の課題です。大塚グループは、現在もそしてこれからも「社会の役に立つ企業でありたい」と考えています。そうでなければ会社としての存続意義はありません。大塚グループは、創業者のメッセージを胸に、志を高く持ち、あきらめることなく日々挑戦を続けていきます。
患者さんや生活者の皆さまにおいても健康に対する意識はかつてないほど高まっています。私たちは今後も変わりなく、新製品やサービスを通じて世界の人々への健康に貢献することを基本精神として事業を推進していきます。お取引先さま、ビジネスパートナーの皆さまなど多くの方々とともに、一つでも多くのアンメット・メディカル・ニーズに対応し、医療関係者や生活者の皆さまにとってのベストパートナーになれるよう、メーカーとしての信頼と責任を果たしていきます。さらに、大塚グループでは、全国の都道府県、また市区町村の自治体と包括的な連携協定を締結し、健康の維持・増進の取り組みや、防災・災害への支援活動を行っています。「独自のトータルヘルスケア」を提供する大塚だからこそできる活動を通じて、地域に根差す皆さまと一緒になって社会課題の解決に取り組んでまいります。
株主・投資家の皆さまに対しましては、コーポレートガバナンス・コードに基づく強固なガバナンス体制の整備や適切な情報開示により、引き続き経営の透明性と公平性を高めてまいります。今後も積極的な対話により、信頼に応え社会的責任を果たしていくとともに、企業理念に基づく持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現してまいります。
これからの大塚グループの100年にご期待いただき、なお一層のご支援・ご鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます。
*1 BCP(Business Continuity Plan):事業継続計画
*2 TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures):気候関連財務情報開示タスクフォース
2022年6月29日
代表取締役社長 兼 CEO