大塚製薬佐賀栄養製品研究所で大豆イソフラボンの研究が開始されたのは、1996年のこと。当時、大豆イソフラボンは女性の健康や美容に関係がある成分であることは知られていたものの、そのメカニズムは明らかにされていなかった。女性のライフステージにおける健康課題に焦点を当て、すべての女性がイキイキと活躍できる社会の実現に貢献する。そのテーマに取り組む研究所にとって、その謎の解明は悲願であった。しかし、6年経っても大きな成果は得られなかった。研究は完全な失敗に終わろうとしていた。研究チームは解散。残った研究員は2名のみとなった。
失敗を取り返せ。そう叱咤激励された。失敗は誰にでもある。しかし、それを悔やむだけでは未来は変わらない。研究チームに最後のチャンスが与えられた。期限は3ヶ月。その間に、製品化へとつながる成果を上げること。これらの厳しい条件のもと、最後の挑戦が始まった。着目したのは、大豆イソフラボンの一種であるダイゼインから腸内細菌の働きでつくられる“エクオール”という成分。6年間の研究の中で、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンに近い構造を持つエクオールが女性特有の健康課題の解決に役立つ事実を確認していたのだ。この成分を製品化することができれば、世の女性たちの役に立てる。研究チームは奮い立った。
1000種以上の腸内細菌の中から、エクオールをつくる乳酸菌を見つけ出す。その方法は、ただひとつ。エクオールをつくれる人から提供してもらったサンプルの菌をひとつひとつ確認していくこと。新しく加わったメンバー1名を含めたチーム全員が気の遠くなるような作業に没頭した。誰もが寸暇を惜しんで研究を進めたが、来る日も来る日も目的の菌は見つからなかった。焦りの中で、時間だけが過ぎていく。そうして、期限である3ヶ月の最後の日がやってきた。またしても、研究は失敗に終わろうとしていた。
しかし、期日を迎えた翌朝、じつに1300番目のサンプルから、エクオールをつくり出す菌を発見する。チームはその菌の正体を調査し、イタリアのチーズに含まれる乳酸菌と同種であることを突き止めた。エクオール製品化への糸口をつかみ、打ち切り寸前だった研究が一気に前進した瞬間だった。
研究開始から18年。2014年に大豆イソフラボンを乳酸菌で発酵させた世界初*のエクオール含有食品「エクエル」が発売される。女性ホルモンの減少によって体調の変化を感じる40代以降の女性に対する数々の試験によって、有効性・安全性に関する十分な科学的根拠が認められた。その特性を正しく理解し役立ててもらうため、全国にエクエル専門の担当者を配置し、病院や調剤薬局への訪問を行った。一方、多くの女性は閉経前後の体調の変化を、「歳のせい」や「一時的なもの」として我慢する傾向にあり、適切な対処には消極的な状況であった。しかし、政府主導による女性活躍推進や、健康経営といった概念が普及していく中で、女性特有のカラダの変化への理解は女性自身だけでなく、社会全体の課題と考えられ始めていた。この風潮が追い風となり、企業や自治体などとも協力し、女性の健康に関する啓発活動が加速。同時にエクエルが健康と美容、さらには前向きな生き方をも支える「女性のための基礎サプリメント」として、広く受け入れられていった。2019年にアメリカでの販売も始まったエクエルは、女性の健康を支えたいという研究者たちの執念によって、世界中の女性の毎日に新たな健康意識をもたらそうとしている。